4/29未明のツアーバスの大惨事

 4/29の未明に、死者7名、重体3名、重軽傷36名というツアーバスの大惨事が発生してしまった。ツアーバスは金沢を経ち、途中の高岡駅で乗客を拾い、東京ディズニーランドへ向かっていた。事故は、4時50分頃にバスが高速で防音壁に衝突する形で起こったが、原因は運転手の居眠りだという。
 ツアーバス(高速バス)の事故は、この10年の間で今回も含めると6回も発生している。2005年4月と、2007年2月の事故は死者を出している。この事故に関しては、運転手の過労による居眠り運転が問題となった。
 その他、2007年10月、2011年9月、2012年2月のツアーバスの事故は、幸いなことに死者は出さなかったが、多数の重軽傷者を出している。
 今回の事故は、運転手がブレーキを踏んだ痕跡もないことから、100km/hに近い高速で防音壁に衝突したため、あのような大惨事となってしまった。
 遺族の方にすれば、運転手が憎くて、復讐してやりたい気持ちで一杯であろう。だが運転手だけの責任で済まされて良いのだろうか。
 労働基準法では、「バス運転手の運転時間を2日間で1日平均9時間と規定している。また運転手1人の場合は、走行距離の上限を670km」としている。金沢〜東京ディズニーランド間の距離は約500kmであるため、上限の670kmは超えていない。しかし「2日間で1日当たり平均9時間」に関しては、守られていたかどうか、疑問も残る。
 「1日平均9時間」ということは、もう1日に10時間を越える勤務が行われることもある。現実に、1日16時間も勤務させるようなことも常態化していると聞く。特にGWのようなシーズンは、道路交通渋滞が多発するため、バスの遅延が常態化する。GWのような繁忙期でなくても、高速道路料金の無料化や土日・祝日料金の1律1,000円化などの大幅値下げなどにより、高速道路の走行環境が悪化している。そのため、運転手の労働環境は年々厳しくなっている。そこでバス事業者は、高速道路の無料化などに反対している。
 高速道路の無料化以前に、2002年2月に道路運送法が改正となり、路線バス事業への参入に対する規制は、「免許制」から安全・安定して供給する能力がある事業者は市場への参入が容易になる「許可制」に、規制が緩和された。この制度の盲点を突いて、「ツアーバス」という形態で、高速バス事業に参入する事業者もあり、これらの事業者は駅などの正規の発着場に発着するのではなく、駐車場や道端から発着するから、発着料なども支払っていない。国交省などに対し、運行計画表などの書類も提出しておらず、公正な競争になっていない。筆者は、そのことはこのブログだけでなく、『高速バス』や『ブルートレイン誕生50年』などでも、その問題点を指摘してきた。またツアーバスは、需要の多い部分にのみ参入するというクリームスキミングを行うため、路線バス事業者の利益率が悪くなり、結果として不採算路線を廃止せざるを得なくなるという問題点を抱えている。
 規制緩和を実施して市場原理を導入するということは、社会的な規制を強化することであると筆者は考えており、夜行高速バス(ツアーバス)の場合は2人勤務を義務付けなければならない。夜間の運転は昼間とは異なり、目や神経が疲労しやすい。1人の運転手が継続して運転できる距離は、2時間程度である。その点、JRの夜行列車の運転手は、2時間ごとに交代している。鉄道は、バスとは異なり、ATSやEB装置(1分の間に運転手がノッチやブレーキ操作を行わなかった場合、自動的にブレーキが掛かり、列車が停止する)などで、安全性をバックアップしているにも関らずである。これらの装置により、運転手が心臓発作などにより、意識を失ったりした際にも、安全性を担保している。
 高速バス(ツアーバス)を2人で運転することの利点として、サービスエリアなどで、運転に従事しない運転手は、タイヤなどの安全点検を行なえる。
 規制緩和の影の部分として、貸切バス事業は路線バス事業よりも2年早く、2000年2月に規制緩和が実施され、所有するバスの台数も5台から3台に緩和され、かつ中古車でも良くなった。その結果、2,800程度であった貸切バス事業者は、1.7倍の4,500以上に増えたため、激しい価格競争が生じるようになった。中には、原価割れでも固定費を賄うために、旅行会社から委託を受けることもあるという。
 現在の規制緩和には行き過ぎた面があることも事実であり、安全性などの社会的規制は強化して、問題のある事業者は、市場から撤退させるようにしなければならない。
 今回の大惨事は、運転手だけの責任ではなく、バス運行事業者である「陸援隊」や、旅行会社「ハーベストホールディングス」にも責任がある。また2007年2月に大阪府吹田市で起きたツアーバス運転手の居眠り事故の教訓が活かされなかったため、国交省にも責任の一端ががある。
 「安い」ということは、運転手などの供給者に負担を強いられていると考えることができるため、消費者も再度、「何故、安く出来るのか」を考えると同時に、安全性も加味して考えて欲しいと思っている。
 現在、夜行列車が大幅に削減されており、特に座席車(ゴロンとシートなども含む)を連結した夜行列車は、急行「はまなす」以外に寝台特急「あけぼの」「サンライズ瀬戸・出雲」だけである。そのため低廉に旅行したい人は、ツアーバスなどを使わざるを得ない環境にある。
 国交省(政府)も、今回のツアーバスの大惨事を真摯に受け止めると同時に、バランスの取れた公共交通体系の再構築をしなければならない。
 今回の事故で尊い命を失われた7名の方々のご冥福をお祈りすると同時に、このような大惨事が二度と生じないことを願っている。また被害に遭われた方々が、1日も早く回復するようにお祈り致します。