「ななつ星in九州」の運転開始と、ブルートレインへのフィードバック

 10月15日にJR九州が企画した豪華寝台列車ななつ星in九州」が運行を開始した。全車A個室だけで編成された列車は、既に「カシオペア」で実現していたが、「ななつ星in九州」は全車が“スイート”以上の高級A個室寝台で構成される。そのため車両の表記も「マイネ」となった。「イネ」は昭和30年6月末で2等寝台に統合される形で廃止されているため、「イネ」という表記の復活は、実に58年ぶりである。
 確かに従来の個室A寝台車と比較して、あまりにも設備が違いすぎることもあり、「マロネ」では違和感があることも確かである。
 この「ななつ星in九州」は、従来のブルートレインのように都市間を結ぶ列車ではなく、九州内の観光地などを周遊するクルージング列車的な要因が強い。そのためマルスに入れて全国のみどりの窓口で販売するのではなく、JR九州の旅行商品として販売しているが、“DXスイート”などは2泊3日で1人当たり55万円もするにも関わらず、競争率は9倍以上になるという。
 日本全体がデフレ不況に苦しむと同時に、年収200万円以下の人が就業者の1/3を超えるようになった現在、「金を持っている人は持っているのだなぁー」と、驚いてしまう。主な顧客は年金生活者と海外の富裕層だと聞く。
 年金生活者は、今まで働いて貯めて来たお金で、非日常的な体験をする楽しみを得たと言えるし、今後、リタイヤしていくことになる世代も、定年後の目標として「ななつ星in九州」への乗車を考えることも良いかもしれない。
 JR九州に刺激され、JR東日本JR西日本も豪華寝台クルージング列車の運行を計画している。JR九州の「ななつ星in九州」の運行が緒に着いたばかりのため、今後を予想することは現時点では難しいが、このような列車は絶えず運行ルートなどを変え、利用者に飽きさせない仕掛けが重要となる。ここが都市間を結ぶブルートレインとの大きな違いである。ただ単に設備だけ豪華にしても、利用者は付いて来ないだろう。
 さらに利用者を満足させるには、人的サービスも重要となる。「ななつ星in九州」を運行するに当たり、専属のチームを編成してサービスに従事させるようにしたと聞くが、かゆいところまで手が届く人的サービスがなければ、利用者は満足しない。
 20系客車が「走るホテル」と言われたのは、冷暖房完備で乗り心地が良く、防音性に優れた優秀車両であっただけではない。当時は「車掌穂」と呼ばれる列車ボーイが乗務しており、寝台のセット・解体だけでなく、乗客の身の回りのサービスなども行っていたことも無視してはいけない。
 やがて国鉄の経営状態が悪化したため、昭和51年で車掌穂は廃止されてしまい、その年にデビューしたオロネ25という1人用のA個室寝台は、省力化された寝台車として、人気はイマイチだった。これは部屋が狭いだけでなく、ベッドメークも自分でしなければならなくなったことが挙げられる。開放型のA寝台車であれば、寝台のセット・解体などのベッドメークは、委託した人が行っていたため、人の手が加わったサービスが見られた。
 「ななつ星in九州」が成功するか否かは、人的サービスに掛かっている部分も多いと、私は思っている。「ななつ星in九州」や他の豪華寝台クルージング列車を運行するのであれば、かつてのジョイフルトレインで得たように、そのノウハウをブルートレインにフィードバックさせ、大阪〜鹿児島中央間や東京〜鹿児島中央間、大阪〜長崎間、東京〜長崎間などを結ぶクルージング列車を設定してはどうかと思う。
 これらの列車は、週3便程度でも良く、全車“スイート”にするのではなく、“ロイヤル”や“シングルデラックス”などの申少し割安なA個室寝台車を組み込み、運行すれば良いだろう。この際、寝台指定券や食堂車のディナー食事券などは、みどりの窓口で販売するようにしたい。
 「ななつ星in九州」の運行が軌道に乗り、ブルートレインにそのノウハウがフィードバックされ、ブルートレインが活性化することを願っている。