交通基本法に関する疑問

 民主党は、「地域公共交通確保維持改善事業‐生活交通サバイバル戦略」では、交通基本法案の関連施策として2011年度の予算編成過における「元気な日本復活特別枠」を含む規定予算の1.4倍に当たる305億円を投入する。但し生活交通サバイバル戦略として、損失補填が実施されるのは、架橋されていない離島航路や航空路などが対象である。そのため鉄道だけでなく、自治体が赤字補填を行っている公共交通(路線バス)は、対象としていない。その結果、デマンド型の公共交通や福祉・乗合タクシーへ転換される恐れが大である。
 民主党は、2009年11月の事業仕訳で、自民党公明党時代の「地域公共交通活性化・再生総合事業費補助」を「直ちに廃止」と結論付けてしまった。それでいて埼玉県朝霞市の財務官僚の官舎などは、100億円で着工されたという。
 地域公共交通活性化再生法は、沿線自治体などが集まって協議会が開催できる点や、路面電車の上下分離経営および建設の際に自治体が起債できる点、試験運行(運航)に対しても補助金が支給される点で画期的であった。2008年の法改正からは、「公有民営」の上下分離経営も認められ、鳥取県若桜鉄道福井県福井鉄道が適用されるなど、地方鉄道の活性化、存続に期待が持てるようになった。
 だが鉄道などのように、複数の自治体に跨る場合は、各自治体の温度差から話がまとまらなかったりすることや、廃止になった鉄道を再生する法律でなかったなど、問題点や課題もなくはなかった。そのため「休止」であれば、鉄道が再生される可能性は残されていた。
それが民主党の定めた「地域公共交通確保維持改善事業‐生活交通サバイバル戦略」は、自民党公明党時代よりも後退してしまった。
 交通基本法案は、未だ国会で審議されていないが、野党時代に社民党と共同で提出した交通基本法案には、「移動権」が盛り込まれていた。それが民主党が与党になり、政府案となると「移動権」が時期尚早ということで盛り込まれていない。国土交通大臣も、公共交通重視の前原誠司氏から高速道路無料化を主張する馬淵澄夫氏などを経て、現在は前田武志氏である。前田氏は、旧建設省の河川局出身であるため、防災が専門であると聞いている。東日本大震災で甚大な被害をもたらしたことから、そのままの状態に復元する復旧ではなく、今までの問題点を改善した「復興」をお願いしたい。
 筆者は、『鉄道・路線廃止と代替バス』や『廃線の危機からよみがえった鉄道』でも、災害復旧時に政府などから支給される補助率(補助金)は、政府からが1/4、自治体からが1/4であり、港湾や空港に比べ極端に低いことを指摘している。災害などがあると、経営基盤が弱い第三セクター鉄道や地方民鉄は、そのまま廃線になってしまう危険性がある。実に高千穂鉄道は、台風による集中被害により、そのまま廃止となった。それゆえ政府や自治体からの補助金の増額を訴えている。そのためかどうかは分からないが、三陸鉄道の復興に関しては政府は3/4を補助するという。これは民主党政府(当時の菅内閣)の大英断であり、評価したい。但しJR東日本の路線の復興に関しては、政府からの補助率は従来通りの1/4のままである。JR東日本は、黒字事業者であることが理由のようであるが、これからは「JR東日本に運行を担ってもらっている」と考え、三陸鉄道と同様に3/4を補助するようにしたい。財源は、日本政府が内部留保している100兆円相当の米ドルを活用する方法もある。諸外国(先進国)でも、100兆円も外貨準備している国はない。これを今、活用するのである。
 「移動権」に関しては、「これを定めると無人島に住む人にまで公共交通を提供しなければならなくなる」という意見を耳にするが、水道・ガス・電気・電話などは無人島に住む人にまで供給されない。そう考えると、ライフラインが通っている場所と必然的になるのではなかろうか。
 また「交通基本法案」は、フランスのLOTI法とは異なり、優先順位が定められていない。これからは身障者・ベビーカー>歩行者>公共交通>自転車>タクシー>トラック>自家用車という優先順位になるのではなかろうか。「自転車は、排気ガスを出さないため公共交通よりも優先順位が上である」と考える人も多いが、身障者や足の悪い高齢者は、怖くて自転車に乗れない。そのため公共交通(鉄道・路線バス)に優先権を与えるべきだと考える。
 政府(民主党)が提出している交通基本法案は、完全にザル法である。いくら理念法とは言え、公共交通優先を明確に定め、自動車に依存しなくても暮らせる社会を実現させて欲しいと思っている。