長距離フェリーの現状と高速道路無料化

 麻生内閣時代に、高速道路料金が平日は一律に3割の値下げ、土日・祝日には1,000円に値下げされたことにより、最も影響を受けたのがフェリー業界である。フェリー業界は、原油価格の高止まりの状態にあるため、運航速度を落として対応していた。そこへ高速道路料金の値下げを行ったため、防予海運が倒産する事態となった。
 民主党は、2010年6月から公共交通への影響も考慮して、道路交通渋滞などが生じにくい高速道路の一部を無料化する社会実験を行った。長距離フェリーは、比較的影響が少なかったが、北近畿たんご鉄道やJR北海道が10%以上の旅客数が減少した。また高速バス事業者の中には、渋滞による遅延が原因で利用者の減少も起きた。物流事業者は、渋滞の発生により、予定していた時刻に貨物が届かないという事態が生じており、期待していた物流コストも殆ど変化なしである。
 長距離フェリーの現状については、『ブルートレイン誕生50年-20系客車の誕生から、今後の夜行列車へ』の7章で書いたが、規制緩和が実施されても航路数や事業者数は増えなかった。フェリー事業者、固定費の高い産業であり、燃料代の比率が3〜4割近く占める。また旅客輸送を行うことから、食堂や売店、待合室、トイレなどがある専用ターミナルを使用せざるを得ず、RORO船やコンテナ船が使用する公共ターミナルよりも、ターミナル使用料が高い。
 もし仮に高速道路料金の無料化や、通年で一律2,000円に値下げされると、関西(大阪・神戸)〜四国や東九州間の航路が大幅なダメージを受ける。フェリーは、定期運航をしなければ荷主や乗客に利用してもらえないため、航路の維持に莫大な費用を要する。言い換えると、廃止されてしまうと復活させることが困難なのである。
 2000年代になって政府(当時は自民党)は、地球環境問題の深刻化などから、トラックから鉄道や内航海運(フェリーも含む)に、モーダルシフトさせようとしてきたが、その一方で夜間の高速道路料金の値下げも実施してきた。
 日本の高速道路料金が高いのは、建設費を通行料で償還するシステムとなっているためであり、山が多くトンネルが多くなることや、耐震構造が要求させることばかりではない。また1970年代に入ると、地方の高速道路の建設を促進させるため、料金プール制が採用され、東名・名神などの利益で不採算の地方高速道路の損失を内部補助する仕組みが確立した。筆者自身も、実際に走行している車は少なく、「一般国道の改良で十分ではないか」と考えさせられる高速道路もある。甘い需要予測があったことは確かである。
 フェリー事業を活性化させる必要性は、危機管理とも関係する。一度に大量の旅客と自動車を輸送できる手段は、フェリーしかない。そのため阪神大震災などの災害時には、フェリーは大活躍する。また個室や食堂、浴室もあるため、病院や老人ホームとして活用することも可能である。
 それではフェリー事業を活性化させるための施策として、専用ターミナルの使用料の値下げと、関税の掛かっていないボンド油の提供が不可欠である。外航船社は、物価の安い国で給油することが可能であるが、内航船社やフェリー会社は国内で給油せざるを得ない。それゆえボンド油の提供は不可欠である。また産業廃棄物の輸送なども、トラックで輸送することを前提とした法体系であり、港湾における産業廃棄物の置き場すら満足に整備されていない。
 行政(港湾管理は地方自治体)は、内航海運や鉄道で産業廃棄物を輸送する法体系に改めると同時に、港湾における産業廃棄物の置き場を整備する必要がある。それがフェリー業界の発展につながると信じている。