日本中央バスの自転車積み込み

 先日、上毛電鉄サイクルトレインの事例は紹介したが、今回は日本中央バスの自転車積み込みを紹介したい。自転車の車内持込みを認めているのは、富士見温泉線と榛東(しんとう)線である。前橋市内を走る日本中央バスは、広瀬東善線だけが自主運行路線であり、他の路線は委託および廃止代替路線である。かつてこれらの路線は、東武バス関越交通、群馬バスなどが運行していたが、2002年2月1から施行された改正道路運送法により、需給調整規制が撤廃となり、不採算路線からの事業者の撤退が容易になった。そのため東武バスなどは、鉄道事業の社員の給料に準じた給料体制になるため、高コスト体質であったため、不採算路線からの撤退を進めざるを得なかった。鉄道系のバス事業者は、その後は分社化を行い給料を下げるようになったが、ショック療法の域を脱していない。
 群馬県は関東地方の中でも自動車への依存が高く、かつて館林市などは民間による路線バスが運行されていない市であった。そのため県庁所在地である前橋市も自動車への依存が高く、JR前橋駅前にあったイトーヨーカドーは閉店しただけでなく、マイカルも閉店している。そのため上毛電鉄の前橋中央駅前ともども、駅前に人が歩いておらず、飲食店なども限定される。さらに群馬県庁の周辺にも、飲食店や商店なども無いため、街の賑わいが感じられず、日本一活気の無い県庁所在都市となっている。
 それゆえバス会社の経営は非常に厳しく、日本中央バスも少しでも利用者を増やすため、富士見温泉線と榛東線では、バス車内に自転車の持ち込みを認めている。持ち込み料などは不要であるが、朝のラッシュ時は車内混雑の原因になるため、利用できない。
 富士見温泉線や榛東線は、前橋市の市街地から上り勾配が続いている路線であるため、山からの下りは楽であるが、前橋市内からの帰りは、上り勾配になる上、冬場などは赤城おろしという強風が吹くため、自転車は運転しづらい。少しでも利用者を増やしたい日本中央交通は、バスの後部に自転車を積めるようにしている。最後部の座席の間に、自転車を固定することができる。さらに後部にあるロングシートを外すと、両側に3台づつ積める。そして後部の床に4台積めるため、合計で12台積むことが可能である。車両は、自転車を積むため、1段ステップのバスであり、中央の扉は折り戸が2つ設けられ、広くなっている。
 自転車の積み込み実績であるが、50台/月程度であり、その利用者の大半が高校生であるという。高校生は、片道(下り坂)は自転車を利用するが、帰路(上り坂)のみバスに自転車を積むという。運賃は、前の運賃箱に入れた後、後部の扉から自転車を下ろす仕組みである。
 日本中央交通の取り組みは、利用者の減少に悩んでいるバス事業者にとって参考になる。特に起伏の激しい地形の場所には最適である。ただ東北地方に見られるように、扉が前側にしかないバスや、従来のようにステップのあるバス車両では実施しづらい。
 前側にしか扉がないバスは東北地方に多いが、バス事業者に理由を聞くと、「無賃乗車を防止するためだ」という。これは後部ドアに鏡を設ければ対応が可能である。前側にしか扉の無い路線バスは、乗降がしづらい。やはり後部から乗車して、前から降車する方法が望ましい。今ではICカードが普及しているため、前後、どちらのドアからでも乗降可能なようにする必要もあるだろう。
 日本中央バスに乗車した日が日曜日であったため、前橋市内の中心部を抜けると、乗客は私だけとなった。満員であろうが、回送状態であろうが、運転手の人件費などの固定費は生じる。そのため運転手のテンションを上げるためにも、土曜・休日乗り放題切符などを設け、土日などの乗客を増やす必要がある。土日に利用者を増やすことは、自家用車の利用者の抑制に繋がるだけでなく、消費も向上する。バスなどで街に出掛けると、酒が飲めるため、消費する金額が増加する傾向にある。それゆえ郊外型のスーパーも、駐車料金を徴収する代わりに、公共交通で来た人に対しては、運賃を補助するようにしたい。公共交通で来たことを証明するには、バスを降車する際に、乗車証明書を貰うようにすればよいだろう。
 バス事業者の今後の創意工夫に期待したい。