『新幹線VS航空機』を上梓しました

 この度、東京堂出版より『新幹線VS航空機』を上梓しました。東京堂出版より著書を上梓するのは、『鉄道・路線廃止と代替バス』に続き、2回目である。
 『鉄道・路線廃止と代替バス』では、鉄道が廃止されてバス化された10の事例を紹介しているが、全て利用者が鉄道時代よりも減少している。くりはら田園鉄道の場合、運賃が半額に値下げされたため、「鉄道時代よりも利用者が増えた」と聞いたので、調査に出掛けてみた。
 するとくりはら田園鉄道が存在した当時から、並行して路線バスが運行されており、鉄道の廃止により路線バスを再編したという。そのため鉄道時代の利用者数だけしかカウントされておらず、路線バスも含めた公共交通全体としての利用者数ではなかった。
 くりはら田園鉄道が廃止された後は、従来からの路線バスの利用者数に、鉄道からのシフトした数を加えたため、鉄道時代よりも増えたと言っているだけであることが分かった。
 つまり公共交通全体を通してみれば、利用者が減少したのである。単刀直入に言うと運賃を値下げしても、バス化されると利用者は減少するのである。バス化されるとバス停に上屋やトイレが無い上、夜などは明かりが無いためにバス停の位置が分かりにくいことや、防犯上の問題もあり、女性などは安心して利用できないことが上げられる。
 東日本大震災で鉄道が壊滅的なダメージを受けたため、BRT化が水面下で計画されていると聞くが、そのようなことをすれば利用者が減少するのは、明白である。今までの自動車に依存した街づくりを見直す機会でもあり、鉄道駅を中核とした街づくりを行って欲しいと思っている。
 そのため東日本大震災で壊滅的な被害を受けた沿線自治体の関係者に、『鉄道・路線廃止と代替バス』は、是非ともお薦めしたいと思っています。
 
 さて話を本論に戻すが、『新幹線VS航空機』は、速達性や運賃、サービスなどを含め、新幹線と航空機の顧客争奪のバトルを描いている。車両の過渡期であったこともあり、100系300系についても紹介している。本著の構成は、以下のようになっています。
 http://www.tokyodoshuppan.com/book/b100012.html
 新幹線と航空機のバトルであるが、新幹線は主に速達性(ミニ新幹線も含む)に力点を置いているのに対し、航空機はマイレージや早割りなど、速達性以外の部分に力点を置いていることを述べている。
 『新幹線VS航空機』というタイトルから、「新幹線の延伸や空港整備の必要性を重視した内容である」と思われるかもしれないが、決してそのような内容ではなく、新幹線や空港整備の負の側面も述べている。その代表が並行在来線問題であり、本著ではしなの鉄道肥薩おれんじ鉄道青い森鉄道の事例を挙げ、新幹線が開業して便利になる反面、地域の日常生活の足を守るためにJRから切り離される並行在来線は、優等列車が無くなるために経営状態は非常に厳しく、JR時代よりも運賃(特に通学定期券)が値上げとなるだけでなく、県境で運賃が細切れになる問題も提起している。これは北陸新幹線の開業によりJRから経営分離される北陸新幹線の場合、新潟・富山・石川の3県に跨るため、3つの第三セクター鉄道に分かれるという。
 並行在来線の維持・活性化のためには、「北斗星」「カシオペア」などのブルートレインが重要である旨を書いた。
 それゆえ整備新幹線に対しても、リニアモーターカーによる中央新幹線以外は、辛口の評価を行っている。特に長崎新幹線北陸新幹線敦賀への延伸などである。
 一方の航空・空港に関しては、日本国内には98も空港を整備したため、空港が過剰であり、利用者の少ない空港は廃港も含めて考える必要がある旨を書いた。また昨今では格安航空会社が誕生して航空運賃の値下げが行われるようになったが、日本国内では航空需要が増える要因が少なく、今後の展望も行っている。つまり新幹線と格安航空会社は、利用者層が異なるため、格安航空会社が誕生しても、新幹線の利用者は大きな影響は受けないことを述べている。
 タイトルだけを見れば、将来バラ色のように感じるかもしれないが、筆者は冷静に分析して新幹線と航空機について述べている。その旨を理解して頂ければ幸甚である。

PS:本著では、並行在来線問題についても、しなの鉄道肥薩おれんじ鉄道の事例を上げて紹介しています。また北陸新幹線の金沢開業時には、北陸本線が県境で3つの第三セクター鉄道に分割される計画があることや、反対に長崎新幹線が開業時には、並行在来線区間となる肥前山口諫早間は、インフラは佐賀県長崎県が所有するが、運行はJR九州が担う計画があることを紹介しています。それゆえ今後の並行在来線問題を考える上でも、本著は有益な著書であり、並行在来線を研究する人にお薦めでございます。