神戸電鉄粟生線の存続

 先日、一時期存続が危ぶまれていた神戸電鉄粟生線の現状を知りたく、視察に出掛けた。筆者が乗車したのは、17:07に粟生を発車する新開地行きの準急であり、粟生を発車した時点では、4両編成の車内には4人/両の乗客であった。発車して暫くすると、加古川橋梁を渡るが、この橋梁の老朽化が進んでいるように感じた。この付近にも、50パーミルの急勾配とR200の急カーブが介在する。小野市の中心部でもある小野駅で纏まった乗車があった。樫山を出発した列車は下り勾配に入り、三木市の中心部に向かう。三木市も郊外に、イオンなどの大型商業施設が立地しているため、中心市街地の空洞化が進んでおり、三木駅も現在では無人駅である。三木駅でも纏まった乗車があり、15人/両程度の乗車率となる。次の三木上の丸駅でも乗車があるが、この駅などはホームまで階段があり、高齢者やベビーカーを持った利用者には、厳しい環境にある。三木上の丸駅の次が恵比寿駅であり、ここで神姫バスが運営する高速道路を経由した快速バスや、三木市が運行する「みっきーバス」というコミュニティーバスと接続する。神戸電鉄粟生線の最大のライバルが、この高速バスであり、運賃は三宮まで650円であり、車内はリクライニングシートが備わる。また住宅地などを経由するため、利便性が良く、神戸市の中心部である三宮まで乗り換えなしである。さらに高速バスであるから、安全上の理由もあり、定員乗車が厳守であるため必ず座れる。
 恵比寿駅は、三木市役所や文化会館などの最寄り駅であり、「みっきーバス」や三木鉄道廃止代替バスが連絡している。三木市役所や文化会館小高い丘の上にあり、恵比寿駅から眺めることができるが、人口7万人の三木市にしては非常に立派であり、三木市役所などはリゾートホテルと見間違うほどである。今となっては、バブル期の負の遺産であろうか。
 恵比寿駅の次の志染(しぞめ)は、粟生線で2番目に乗降客数が多い駅であり、1日当たり4,300人以上の乗降がある。志染では乗車も多いが、纏まった降車もあった。志染を出ると平坦地が多くなり、70km/h程度まで速度は向上する。緑が丘駅も乗降が多く、1日当たり4,200人以上であり、粟生線では第3位である。緑ヶ丘の次の押部谷(おしべたに)駅からは、複線区間(部分複線)となる。この駅からは、神戸市に入る。粟生線で最も乗降客数が多い西鈴蘭台駅(約11,000人/日)を出ると、車内には立ち客が見られるようになった。ただ西鈴蘭台鈴蘭台間は、トンネルがあるためか単線のままである。
 鈴蘭台からは、50パーミルの下り坂の連続であり、電車は勾配抑速ブレーキを使うこともあり、50km/h程度で急勾配を下る。三宮へ行くには、終点の新開地で乗り換えを強いられる。その際には、1つ下の階まで階段を降りなければならない。粟生から高速神戸までの運賃は、780円であり、所要時間は約80分であった。三木駅からだと、約60分になる。表定速度は、30km/h程度である。
 粟生線の存続には、神戸電鉄粟生線活性化協議会の果たした役割が大きい。粟生線の利用を促進させるため、粟生線のガイドブックやマップなどを作成して、駅に備え付けるようにした。粟生線活性化協議会の事務局は三木市役所内にあり、皮肉にも三木鉄道を廃止に追い込んだ薮本三木市長が、神戸電鉄粟生線の存続に熱心に取組んでいる。
 筆者は、三木鉄道の輸送密度が360人程度であったため、鉄道として存続させるには厳しい状態であることは承知していたが、DMVを導入して高速バスが発車する恵比寿まで延伸させれば、輸送密度を500人程度まで向上させることは可能であったと考えている。DMVを導入して、せめて10年程度は様子を見て欲しかった。それゆえ薮本三木市長の最初から「廃止ありき」の考え方を、『鉄道・路線廃止と代替バス』(2010年東京堂出版刊)で批判している。
http://www.tokyodoshuppan.com/book/b80335.html
 薮本市長も三木鉄道の廃止後は、神戸電鉄粟生線まで廃止されると、三木市から鉄道が完全に消えるため、それによる街の更なる衰退を恐れたこともあり、粟生線の存続活動に熱心に取組んでいる。「交通」には、市場の失敗が伴うため、ただ単に財政削減だけの視点で取組むことは、なじまない。「採算性」以外に「便益」や外部効果なども加味する必要がある。
 そのような活動が実り、今後5年間で兵庫県から40億円の無利子の融資が受けられるようになった。この費用を使い、老朽化した橋梁などの架け替えを行えば良いだろう。
 筆者は粟生線を乗車して、階段などのバリアが多いことが気になった。2011年4月から始まった地域公共交通確保維持改善事業(生活交通サバイバル戦略)は、試験運行(運航)などに要する費用への補助が実施されないため、地域公共交通活性化再生事業よりも後退した旨は、以前にブログで書いたが、バリアフリー事業に関しては、補助金が増額されている。
 三木上の丸駅や恵比寿駅などは、ホームへ向かう通路に階段があるため、国から補助金をもらい、スロープを設けるべきだろう。
 神戸市、三木市、小野市の出来ることとして、郊外への大型商業施設の出店を規制し、駅を中心にした再開発を実施するべきだろう。特に公共施設や高齢者用の住宅は、駅前に整備する必要がある。
 志染〜新開地間は、神戸の近郊路線としての性格が強いため、たとえ年間で10億円の赤字が出ていても存続させる必要がある。もし粟生線が廃止されると、並行する道路(高速バスが走行する)の道路交通渋滞が激化し、粟生線から出る損失よりも、道路交通渋滞による経済損失の方が遥かに大きくなるだろう。
 粟生線の赤字を圧縮する方法として、つり革や枕木オーナー制や、駅名にネーミングライツを募集して増収を図る方法がある。志染、緑ヶ丘、押部谷などの比較的乗降の多い駅では、ネーミングライツは有効ではなかろうか。
 粟生線が廃止になると、JR加古川線北条鉄道の利用者も減少する危険性がある。粟生駅は小野市に属するが、駅前には公共施設などが見られず、単なる乗換駅でしかない。粟生駅前の再開発も重要ではなかろうか。
 駅前の再開発を行い利用者を増やす以外に、志染〜新開地間に快速を増発させ、速達性を向上させる必要がある。
 以上のことから、神戸電鉄粟生線は、「採算性では負であるが、便益では正である」ため、兵庫県からの無利息融資だけでなく、国からの補助金バリアフリー化を進め、ネーミングライツなどを実施すれば、利用者の増加と増収が図れ、一石二鳥である。
 まだまだ改善の余地が有り、兵庫県だけでなく沿線自治体、神戸電鉄神戸電鉄粟生線活性化協議会の、今後の取り組みに期待したい。