LCCの客寄せ

 ピーチエアーが新規参入してから、3カ月が経過した。そして7月以降は、エアーアジアジャパンやジェットスタージャパンが、それぞれ新規参入を行う。2000年の航空法の改正に伴う規制緩和が実施されてからは、スターフライヤースカイネットアジア航空(ソラシドエアー)が新規参入を行い、1990年代の終わりに新規参入したスカイマークAir Doと合わせて格安航空会社(LCC)と言われている。これらの航空会社は、A320B737などの定員150〜180名定員の機材を使用し、エコノミークラスだけのモノクラスのサービスを行い、多頻度高密度運航を行っている。
 だが人によれば、ピーチエアーが日本で最初のLCCであるという意見もある。スカイマークスターフライヤースカイネットアジア航空Air Doは、米国のサウスウエスト航空の手法を用いて市場へ新規参入を行ったが、ピーチエアーの戦略は、アイルランドライアンエアーが採用している「基本運賃」+「付加料金」というスタイルを採用している。「付加料金」とは、機内食を含む飲食代、座席指定料金、手荷物預かり料金、電話予約料金などである。
 ピーチエアーの基本運賃は、2か月前までの事前予約を行うと大阪(関空)〜福岡間の片道運賃が3,000円台、大阪(関空)〜札幌(千歳)間が4,000円台と破格である。大阪から札幌が日帰り圏となったため、関西を代表する温泉観光地である南紀白浜のライバルが、北海道になってしまったとも言える。
 エアーアジアジャパンは、マレーシアを拠点とするエアーアジアの系列であり、この会社は日本就航時には宣伝も兼ねて羽田〜クアラルンプール間の片道運賃5,000円を展開した。エアーアジアジャパンは、ANA連結子会社であるが、2012年8月から成田〜札幌(千歳)、成田〜福岡、成田〜那覇で運航を開始する。そして国際線として、同年10月から成田〜ソウル(仁川)、成田〜釜山を就航する予定である。『新幹線VS航空機』を参照されたい。
 エアーアジアジャパンは、通常は成田〜札幌、成田〜福岡などを5,000円台で提供する予定であるが、後発であるためキャンペーン料金として「運賃5円」という常識外れの運賃を設定した。常識で考えれば5円の運賃では、元が取れる訳がないが、運賃5円というのは基本運賃であり、乗客を航空機に搭乗させると機内で飲食を行ったり、搭乗する際に座席指定や手荷物を預けたり、場合によれば自社のグッズを購入するため、そのような費用を加味すると1人当たり5,000円以上になるという。
 このような破格の価格設定は、日本よりも人足早く規制緩和を行った台湾では、瑞聯航空公司(ユーランドエアー)が、1997年頃に台北発高雄行きの早朝便で、4NT(当時の1NT=4円)という価格設定を行っていた。これは朝6:00に台北を離陸したら6:50に高雄に到着する。40分後に台北行きとして折り返すため、本来ならば回送で返す機材を超格安で乗せて返していた。「早起きは三文の得」という諺が日本にはあるが、この場合は路線バスなどが動いていないため、台北市内にある松山空港まで行く際のタクシー代が負担になったと思う。
 「LCCは安い」というイメージがあるが、ピーチエアーの場合、子供運賃が設定されていない上、各種の「付加料金」を払うとJALANAと大差がないか、反って割高になる可能性もある。
 ピーチエアー、エアーアジアジャパン、ジェットスタージャパンの利用者は、主に帰省客や高速バスなどを利用してレジャーに出掛けていた人達が中心であり、新幹線や既存の大手航空会社を利用していたビジネスマンがシフトするとは考えにくい。ビジネスマンなどは、前日に出張が決まることが多い上、都心部からのアクセス(足場)を重視する。
そのため新幹線からのシフトは考えづらく、ライバルのJR東海も様子見の状態であり、特に警戒感を持っていない。
 昨今、「安いことは良いことだ」という風潮が強いが、LCCは予備機がないために、機材トラブル時には柔軟な対応が難しいだろう。またピーチエアーなどは、駐機時間を少しでも短くするために、機内に乗客がいる状態で給油をおこなうという。これなどは安全性に問題があるのではなかろうか。
 受けて立つ側となるJALANAは、アライアンスに加盟しているため、世界中に強力なネットワークが張り巡らされている。それゆえマイレージサービスや、系列のホテルとのタイアップ、および機材トラブルや天候不良時の欠航などの際は、これらのホテルに無料宿泊させるなどの優れたグランドサービスの提供が可能となる。
 先日の格安ツアーバスでも書いたが、安いということは、それなりのリスクが付き物であり、既存の事業者にはイレギュラーが発生した際のサービスのノウハウを有している。
 航空分野はバスとは異なり、事故が発生した際、乗客が全員死亡する大惨事に繋がる可能性が大であるため、必要以上の値下げ競争は自嘲して欲しいと思っている。
 エアーアジアジャパンが、運賃5円に設定できたのは、搭乗させることで「付加料金」が徴収することができるためであり、各種サービスなどを受けると5,000円以上になってしまう。それゆえ利用者は、自分の旅行目的などに合わせて航空会社などを選ぶ必要があり、基本運賃だけでなく、付加料金にも着目して欲しいと思っている。