ツアーバスサービスの思わぬ盲点

 昨日、ツアーバス最大手のウイラー・トラベルのツアーバスを利用して上京した。その時に不覚から車内に忘れものをしてしまったのだが、その対応に関しては全く素人というか、利用者のことは全く考慮されておらず、既存の路線バス事業者と比較して雲泥の差があった。
 ウイラー・トラベルは、自社でバスを所有して自社の運転手がバスを運行するスタイルを採用しておらず、運行を専門に行う子会社に委託している。無事、目的地に到着した際は、問題が無いのであるが、車内に忘れものが生じた際などは、その連絡先などが分かりづらい。電話帳を見ても、その営業所などが掲載されていないためである。
 「ウイラー・エクスプレス」の塗装のバスを見つけてその件について尋ねても、「俺たちは、ウイラー・トラベルではない。それについては知らん」となってしまう。
 そこで緊急の電話先へ電話したのだが、オペレーター数が少ないのか、電話が繋がりにくい。漸く繋がり、バスの運行委託先である「カミコウバス」へ電話したところ、「手荷物の忘れものは、着払いしか受け付けていない。本日は、事務員がいないため、月曜日以降になる」という。そこで私は「そのかばんの中には、帰りの予約をプリントアウトした用紙が入っている。それが無くても、その旨を説明すれば乗車可能であるのか」と尋ねると、「それは無理だ」という。私が「明日は別の用事があるので、そのバスに乗車しなければならない」というと、「こちらには全く責任がない。あんたがすべて悪い。あんたが乗車できようができまいが、こちらの知ったことではない」という横柄な態度でした。
 私は「バスの運転手さんが車両を回送してくるのだから、営業所まで取りに行きたい。所在地と最寄駅を教えて欲しい」と言うと、渋々ながら教えてくれました。その場所は、新宿駅から1時間半程度所要時間を要する北総線の西白井(にししろい)駅下車、徒歩で20分以上も要する場所でした。
 帰路の乗車券が入っているため、そこまで取りに行きました。私がご迷惑とお手数をお掛けした旨を誤ると、バスの運転手さんや一般の職員さんは丁寧な対応をしてくれたのですが、ひとり作業着を着た人が横柄な態度でものをいうのです。「私がさっき、あんたの電話に対応したものだ。あんたの忘れものに関しては、こちらは一切非が無い。あんたが全て悪い。ウイラー・トラベルの規定では、着払いで利用者へ郵送するとなっている。私達は、あんたらを運んでやる立場であり、忘れものなどの件に対して、本来ならばサービスしなくても良い。今回は特別だ。感謝しろ」と警察以下の対応でした。
 カミコウバスの一般職員の方が、「新宿からここまで忘れ物を取りに来られ、御苦労さまです。駅まで遠いのでお送りします」と言って送ってくれたため、私は車内で「あの人は、誰ですか。車両整備の方ですか」と尋ねると、「うちの所長である」というからびっくりしました。
 所長と言うのは、人の上に立つ人物であり、社員の模範でなければなりません。所長の応対は非常に尊大で、客を見下した対応でした。私に「あんた」と言ってみたり、「運んでやっている」などという言葉は、サービス業に従事する人間にとっては言語道断です。委託を受けているとは言え、バス会社はサービス業です。利用者の身になったサービスを心掛けるようにするのが当然です。ウイラー・トラベルの定める規定を遵守することばかりに一生懸命でした。
 先日、ツアーバス事業者が事故を起こした際、「安くて安全なバスは実現しないのでしょうか」というメールを頂きました。私は、「2階建て車両を導入し、座席間隔を詰めて定員を多くし、トイレを廃止すれば、運転手1人当たりの労働生産性が向上して、安全性を維持したまま運賃を下げることは可能であるが、居住性は悪くなりますよ」と返信しました。
 今回の件で改めて、地上サービス要員(電話対応要員、忘れ物担当などのグランドサービス)をカットすれば価格は下がるが、大幅なサービスと安心の低下に繋がることを痛感しました。JRバスなどは、少々運賃は高めですが、そのような点はしっかりしています。
 さらにJR(鉄道)は、全国にネットワークが広がっているため、列車無線などで対応してくれます。JRになってから、忘れ物が見つかりにくくなったり、送料を請求されることが生じるようになりましたが、忘れ物を保管するシステムが構築されています。国鉄時代は、駅員の対応が無愛想ではありましたが、忘れ物をした際の対応は素早く、無料で最寄駅まで届けてもらえました。
 価格や車内サービスなどを重視した議論が多いのですが、グランドサービスも重要です。もちろん安全であるということは、大前提です。
 今年の秋から「路線バス」として高速バスを運行するウイラー・トラベルですが、利用者からの電話応対や忘れ物などの非常時の対応などのグランドサービスもしっかり行わなければ、「路線バスの許可を得たため、安全でサービス良好です」と言っても、利用者からの信用と信頼は得られないだろう。JRバスなどの既存の路線バス事業者は、これらの点での対応に関しては、ウイラー・トラベルよりも格段に優れています。
 ウイラー・トラベルのグランドサービスの脆さを思い知らせれた1日でした。