国際戦略コンテナ港湾構想の撤回を

 政府は、以前の釤スーパー中枢港湾構想”を発展させたハイパー中枢港湾構想(国際戦略コンテナ港湾構想)を掲げている。10,000TEUを超える大型コンテナ船が入港できるように大水深(水深18m)の巨大バースを建設しようという構想である。政府は、日本に10,000TEUを超える大型船が入れる港湾がないため、釜山や上海にハブ港の機能が奪われ、日本〜釜山、日本〜上海というように、日本の港湾がフィーダー化したため、これが国際競争力を殺いでいると考えているようである。そのため2011年度は、日本の港湾に320億円、そして2012年度は380億円程度投入する考えである。
 ここで考えなければならないのは、果たして日本にこのような大規模な港湾が必要かどうかである。港湾におけるコンテナ貨物の取扱量だけを見て、「日本の国際的地位が低下している」というのは、早合点ではなかろうか。
 日本の産業構造は、オイルショックを契機に大きく転換し、従来の重厚長大型の産業から軽薄短小型の産業構造に変わってしまった。さらに昨今では、半導体や医薬品・バイオ関連の素材などが主流になりつつある。このような貨物は高付加価値品であり、かつ単価も高い貨物であるが、船で運ぶ貨物ではなく、航空機で運ぶ貨物である。
 そのような理由から、日本の産業構造は高付加価値品を製造する国になったのである。これは決して悲観することはない。それゆえ大水深のコンテナバースなどは必要なく、港湾に資金を投入するのであれば、船社、埠頭公社(会社)、港湾局、港運運送事業者、各荷主の間で、バラバラに導入されてきたコンピューターシステムを統一する方が賢明ではなかろうか。シンガポール、香港、上海などの東アジアの国々の港湾は、1980年代後半から1990年代になってから拡張・整備されたため、最初からEDIというコンピューターシステムに統一され、非常に効率が良く、生産性が高い。日本の港湾の国際競争力を強化するならば、コンピューターシステムの統一(シングルウインドー化)が不可欠ではなかろうか。
 釤国際戦略コンテナ港湾構想”を提唱するのであれば、どのようにして貨物を創るか、どのように集荷するのかという戦略こそ、必要なのである。日本発の貨物でコンテナ船などで輸送する貨物は、主に自動車(中古車)である。日本の中古車は、世界でも高い値で売れ、現地でも好評である。後は重機はトラクターなどがある。
 自民党時代は、何の戦略もなく、コンテナを取扱う港湾を、全国に65箇所も整備した。このような狭い国で、コンテナを取り扱う港湾が65箇所もある国は皆無である。政府(民主党)も港湾だけを考えるんではなく、背後地をどのようにして発展させるかを考えなければならない。
 そうなると日本の港湾に10,000TEUを超える大型コンテナ船を誘致することを考えるのではなく、クルージング船や遊覧船を誘致することを考えた方が良い。「観光立国」を目指すのであれば尚更ではなかろうか。瀬戸内海などは、風光明媚な場所が多く、クルージングを行うには魅力的である。
 そうなると日本が手本にする国は、オーストラリアのシドニー港である。シドニー港の年間のコンテナ取扱量は、120万TEU程度と東京、横浜、名古屋、大阪、神戸の各港湾よりも遥かに少ないが、人々を港湾に引き付けており、街が活性化している。
 つまりシドニーは、港湾だけを考えず、港湾を活かした街づくりを行ってきた。見事に港湾は、観光に貢献しているのである。
 日本では、クルージング船や遊覧船の誘致以外に、船の修理産業を育成する方法がある。神戸港などには、多くの職人などが顕在であることから、クルージング船の内装の修理などを行わせると良いだろう。
 政府も、何千億という多額の費用を掛けて大水深のコンテナバースを整備し、10,000TEUを超える大型コンテナ船を誘致することを考えるのではなく、クルージング船や遊覧船の誘致を考えた方が、港湾の活性化と雇用創出に有益ではなかろうか。さらに損傷した船を誘致し、修理する産業を育成することの必要性を感じる。
 是非とも、釤国際戦略コンテナ港湾構想”を撤回して頂き、地に足が付いた港湾活性化策を展開して欲しいものである。