民主党の整備新幹線の認可に関して

 国土交通省は、整備新幹線の未着工の3区間北海道新幹線:新函館〜札幌、北陸新幹線;金沢〜敦賀九州新幹線長崎ルート諫早〜長崎)の着工を認可するという。この区間の着工が認可されると、九州新幹線の長崎ルートの武雄温泉〜諫早間が2008年3月に認可されているため、実に3年ぶりの認可となる。
 九州新幹線長崎ルートは、費用対効果などからスーパー特急方式になる公算が高いこともあり、2022年に完成するという。スーパー特急方式とは、在来線と同じ1067mmゲージで建設する新幹線であり、フリーゲージトレインを用いて1,067mm区間は160km/h〜200km/hで走行し、新幹線区間(フル規格)は300km/hで走行を行う。開業後に需要が増えたならば、全線をフル規格に改軌が可能なようにトンネルや橋梁は、フル規格で建設されるという。その他新幹線は、北陸が2025年で、北海道は2035年に完成するという。
 3区間の総事業費は約3兆円に上ることになり、その内の2兆円は国と沿線の自治体が負担するという。残りの1兆円は、JRが「新幹線」というインフラを保有する鉄道建設運輸施設整備支援機構に支払っているリース料から充当するという。
 ここで考えなければならないことは、投資に見合うだけの便益があるのかどうかである。北陸新幹線敦賀まで開業したとしても、長野経由になると距離が長くなるため、米原経由と所要時間で大差が無くなってしまうが、特急料金は割高となる。大阪〜富山間で運転されている「サンダーバード」などは、多分フリーゲージトレイに置き換わり、敦賀〜富山間は北陸新幹線を走行することになるだろう。北海道新幹線に関しては、B/Cは1.1程度であると聞く。この数字は、投資した費用の10%増しの便益しか得られないということである。「便益」であって「利益」ではない。所要時間が短縮されることは、「便益」として評価されるため、採算性に関しては「赤字」である可能性も高い。また九州新幹線開業時に山陽新幹線との相互乗り入れを行ったが、山陽新幹線JR西日本九州新幹線JR九州が所有しているため、博多を境にして料金が細切れになってしまった。そのため利用者には負担となっている。北海道新幹線北陸新幹線が開業して、東北新幹線上越新幹線と相互乗り入れを行うようになると、新青森や仮称(上越)で会社が変わるため、料金が細切れになる可能性が高い。長崎新幹線スーパー特急方式で整備されるため、料金体制としてミニ新幹線に準じた体制になる可能性が高い。ミニ新幹線の人気が決して高くないのは、新幹線区間の料金と在来線区間の料金を加えた特急料金を採用しているため、時間短縮効果が低い割には、料金が割高になるためである。
 北海道新幹線が札幌まで開業しても、B/Cが1.1というのは、新青森で特急料金が細切れになるために価格面で割高になる点に加え、LCCの台頭が挙げられるだろう。ジェットスタージャパンは、成田〜千歳間の片道運賃が5,000円台を考えているという。少しでもB/Cを上げるには、距離による通算の特急料金・グリーン料金を採用しなければ、ならないだろう。
 以前のように新幹線が開業しても企業誘致が進まず、大都会に利益を吸い取られるストロー効果が見られるようになった。その上、並行在来線をJRから切り離しても良くなったため、赤字必至のローカル線を引き受ける地元自治体には大きな負担となることは、『新幹線VS航空機』でも書いた。この並行在来線問題は、貨物輸送を完全に無視している。北陸新幹線の金沢開業により、県境で3つの第三セクター鉄道に分割される。それが2025年に敦賀まで延伸されると、4つに分割される可能性もあることになる。全く地域輸送や貨物輸送を無視した政策であると言わざるを得ない。
 今後は、より並行在来線問題が影を落とすことになるため、その区間はとりあえずは国がインフラを管理するようにして、従来のJR旅客会社が列車を運行するようにしたい。地方分権が進展すると、州政府がインフラを管理するようにすれば良いだろう。
 今回の整備新幹線の未着工区間の認可は、「景気浮揚を図る大型公共事業である」と思えて仕方ない。ところで日本は、1995年頃を境として生産年齢人口が減少に転じており、金融緩和や大型公共事業などのケインズ経済学的な手法では景気は改善しない。ここ5年間に団塊世代が完全に退職すると、ますます自動車や住宅、家電などの商品を購入しなくなる。景気回復を考えるのであれば、高齢者から若人へ財産を相続させる生前贈与の促進が有効であろう。金融資産や貴金属への課税を強化するという方法でも対応が可能である。
 整備新幹線の建設を認可するのであれば、1990年比でC02を25%削減する国際公約を掲げているのであるから、「航空機からCO2の排出量が少ない新幹線へモーダルシフトさせたい」という政策目標を掲げなければならなかった。そういう視点に関する意見がほとんど出てこなかったことが残念でならない。大型公共事業を実施しても、思うような景気回復が期待できないため、より慎重に吟味して認可するべきだったのではなかろうか。