近鉄内部線・八王子線のBRT化に疑問

 近鉄内部線・八王子線が、BRT(Bus Rapid Transit)化される危機に瀕している。内部線・八王子線は、762mmゲージのナロー鉄道として今では貴重な存在となっているが、慢性的な赤字経営のため、近鉄としては2013年度末当たりで廃止し、その後はBRT化を検討しているという。近鉄内部線・八王子線は、確かに慢性的な赤字ではあるが、輸送密度は3,000人程度であり、かつ1日当たり1万人も利用する鉄道である。この数値では、バスでも運べないことはないが、四日市市内の道路交通渋滞は激化することになる。
 そこで近鉄は、内部線・八王子線の軌道敷きをバス専用道路として、低床式のバス車両を用いたBRTを導入したいと考えているようである。軌道をバス専用道路へ転換するのに約38億円程度要するが、ここで考えなければならないのは、2007年10月に成立した地域公共交通活性化再生法である。
 この法律は、LRTの建設に対する「公設民営」や、従来の軌道法で認められていなかった「公有民営」の上下分離経営が認められ、LRTの整備を行う自治体も起債が可能になるなど、LRTの整備に関しては前進しているため、肯定的に評価される傾向にある。
 だが地域公共交通活性化再生法では、BRTを整備する場合には、自治体の起債が可能になるだけでなく、車両の購入に対して国から補助が行われるようになった。2010年8月30日からは、鹿島鉄道廃線跡を活用してBRTの運行が開始したが、石岡市小美玉市なども起債を行い、専用道などの基盤整備を行った。この場合、専用道は市道となっており、国からは道路整備の名目で補助金が支給されている。国からは、道路整備の名目で補助金が支給されることや、各自治体の起債が可能になったことは、別の見方をすれば2011年3月の東日本大震災で被災した鉄道や不採算の鉄道は、廃止してBRT化が促進される恐れがある。
 東日本大震災で被災した気仙沼線は、2012年8月20日からはBRTとして運行しているが、鉄道時代と比較すれば利用者は、1/10程度まで激減してしまった。気仙沼線が仙台と気仙沼を結ぶ都市間連絡の機能を担っていたため、バスによる分断化でその機能が喪失したと言える。
 BRTに転用する場合、国に対して道路整備(市道)という名目にすれば、整備費に対して補助が行われる。また車両購入費に対する補助金が国から支給され、四日市市が建設費に対して起債が可能であるという安易な理由だけで、近鉄内部線・八王子線を廃止してBRT化して良いものだろうか。
 鹿島鉄道廃線跡を活用したBRTは、一般道路と交差する箇所には、遮断機が設けられ、通常は専用軌道の方を遮断している。そのためBRTは、その場所では必ず一旦停止を行い、遮断機が上がり、左右の安全を確認してから前進する。
 気仙沼線の専用軌道区間では、未だ遮断機が設けられておらず、警備員が専用軌道へ一般車両が進入することを防止していた。
 専用軌道区間でも、バスは50km/h程度の速度で運行するため、鉄道時代よりも運転速度が遅くなってしまう。近鉄内部線・八王子線の最高速度は45km/hとなっているが、遮断機で完全に自動車を遮断しているため(鉄道優先)、列車は踏切で停車する必要もない。仮にBRT化されてしまうと、一般道路と交差する箇所でBRTが一旦停止することになるため、所要時間が鉄道時代よりも要することになる。
 国から補助金が支給され、かつ四日市市が起債をするため、近鉄の負担は38億円よりも少なくなるだろうが、そのような多額の費用を掛けてまでBRT化するのであれば、現在14両所有している車両を更新した方が得策ではなかろうか。
 特殊ゲージのため、1両当たり1億円程度要すると言われるが、それでも14億円である。また地域公共交通確保維持改善事業(生活交通サバイバル戦略)では、駅舎などのバリアフリー化に対しては補助金が支給される。これを活用して、駅舎などのバリアフリー化を進めるようにして欲しい。
 鉄道を廃止してバス化させると、『鉄道・路線廃止と代替バス』でも書いたが、利用者は確実に減少する。近鉄内部線・八王子線も同様の結果を招くと同時に、四日市市内の道路交通渋滞が激化するという負の外部効果が生じてしまう。
 近鉄内部線・八王子線は、「不採算」ではあるが、「正便益」であるため、鉄道として存続させる線区である。但し近鉄の人件費では、赤字額が膨らむため、子会社化して鉄道として存続させることになるだろう。子会社化しても赤字経営は免れないが、赤字額が大幅に減少するため、地元でも支えることが可能となる。そして鉄道軌道輸送高度化事業費補助などを活用して、軌道強化を行うべきだろう。この補助は、中小の民鉄であれば支給される。
 拙速に判断するのではなく、便益と街づくりという視点も加味して、中長期的な視点から検討してもらいたい。