交通基本法案は、廃案になりそうです

 昨日、野田首相は11/16に衆議院の解散を突然、表明した。公債特例法案や一票の格差是正と議員定数の是正に一定の目途を付けたこともその要因である。ただ年度末に政治的空白を作ることは、望ましいことではない。また1年おきに首相が変わることになるため、諸外国からも馬鹿にされることだろう。衆議院解散が決定したことにより、インドの首相来日が延期となった。辞める首相と面会しても意味がない。
 ところで今回の衆議院解散により困った問題が生じた。それは交通基本法案が廃案になる可能性が濃厚であるためである。交通基本法案は、以前から民主党社民党共同で提出してきており、自民党の妨害により、廃案になってきた。2011年3月8日に民主党政府が国会に上程した交通基本法案は、「交通権」や「移動権」に関する権利が削除され、かつ災害復旧時の対応に関する条項も削除されていた。皮肉にも、その3日後に東日本大震災が発生した。
 地方の公共交通を取り巻く環境は厳しさを増しており、特に鉄道事業法が改正された2000年3月以降、道路運送法が改正された2002年2月以降は、廃止に関する規制が「届出制」に緩和されたため、事業者の一存で路線の廃止が可能となった。そうなると市場原理の適応しない過疎地の不採算路線の廃止が進み、公共交通空白地域が顕在化した。最近、話題に上がる「買い物難民」の増加である。
 これでは拙いと思った自民党公明党は、2007年5月に地域公共交通活性化再生法を成立させ、頑張る地域に対しては補助を手厚くするなどを行った。この時は、試験運行(運航)や試験増発などの社会実験に対しても、補助金が支給されていた。
 だが民主党が2011年4月からスタートさせた地域公共交通確保維持改善事業ー生活交通サバイバル戦略では、必要最低限の公共交通に限定して補助することになり、国が補助する路線バスや駅や国が保持する路線バスに接続する新規創設のデマンド型の公共交通、架橋されていない航路を運航するフェリーに限定されるようになるなど、後退した面もあった。
 交通基本法案では、予算などが定められていないため、理念法の域を出ていなかったが、衣食住と並んで「交通」が重要な要素と認識されるようになりつつあった。
 今回の衆議院の解散・総選挙により、もし自民党が比較第一党になると「道路建設中心」の元の状態に戻ることが心配される。安倍総裁が選ばれる過程で、自民党の古株が暗躍していたことも要因である。日本維新の会の橋下大阪市長は、「赤バス」を不採算を理由に廃止しようとする人物であり、典型的な新自由主義の塊である。ここの参謀として竹中平蔵がいる。竹中平蔵は、労働者派遣法を改正して、派遣労働者を増やすなど、日本を無茶苦茶にした張本人である。橋下徹竹中平蔵が、公共交通を重視するとは思えない。せめての救いが、”脱原発”である点である。
 一番、公共交通重視を主張するのが、社民党である。社民党は、高速道路無料化やガソリンの暫定税率の廃止などは、マニュフェストに掲げない。そして次が民主党である。民主党も、菅首相の時代になると”クルマ社会の是正”を言い始めた。
 だが2011年3月8日に国会に上程した「交通基本法案」には、「交通権」や「移動権」に関する文言は一切盛り込まれなかった。おそらくこのような文言が盛り込まれることを危惧した交通事業者の圧力があったと考える。
 今度の衆議院選挙は、民主党にとれば完全に逆風の選挙であり、自民党が比較第一党になれば、交通基本法の成立が遠のくことになるだろう。
 ただ世界の趨勢から見て、自動車中心の交通政策は完全に逆行しており、自民党は「国土強靭化」という名目で、10年間で200兆円の公共事業を計画している。自民党の公共事業は、「道路建設」である。
 今回の衆議院選挙では、比例は〝脱原発”〝反TPP”〝反消費税の増税””環境保全”を掲げる「みどりの風」に入れようと考えている。「みどりの風」は、フランス・ドイツで支持されている「緑の党」の考え方を踏襲している。「緑の党」は、”脱クルマ社会”であるため、公共交通重視である。「みどりの風」が政権運営を担えるだけの人材には乏しいが、健全な野党を育て上げることも有権者の任務である。
 14も政党があるにも関わらず、交通政策が軽視される現状に対し、情けなく思っている。

追伸
 11/29現在、「公共交通重視」を選挙公約として掲げているのは、社民党だけです。民主党マニフェストからは、「公共交通重視」や「交通関係」の表記は消えました。社民党は、“脱原発”“反TPP”“反消費税増税”も掲げている。