星晃氏のご逝去に対し、心からお悔やみ申し上げます

 今月の8日に、新幹線0系電車や151系電車、583系電車、10系・20系客車などの名車を開発なされ、旧国鉄の副技師長を勤められた星晃氏が永眠された。星氏は、旧制の東京大学工学部を卒業され、旧運輸省国鉄)に入省された後、電車・客車の設計・開発に関られた。星氏は、ご自身が鉄道が好きであったため、常に利用者はもちろんであるが、乗務員のことも考え、使いやすい車両を目指された。
 星氏の設計した車両の中で、今でも永遠に語られているのは、クロ151のパーラーカーとナロネ20ではなかろうか。筆者は、残念ながらどちらの車両も実物を観たことがない世代であり、ナロネ21に乗車した最後の世代の1人である。
 20系客車の流れるような美しいスタイルは、星氏のデザインであり、車齢を重ねても風格が感じられた。20系客車は、10系客車の軽量化技術を活かした上で、完全に時代を先取りした豪華車両であった。現在、寝台特急カシオペア」が大人気であるが、デビューした当時は、それを完全に凌ぐ人気であり、2等座席車(現在の普通車)でも採れれば幸運だったのである。
 20系客車の中でも羨望の的は、ナロネ20の1人用個室寝台であり、大企業の重役や大物政治家が利用したという。車内には、当時は未だ珍しかったステンレス製の折りたたみ式の洗面台があった。また昼間は、寝台を壁へ収納すると、ゆったりとしたソファーに早変わりした。
 ナロネ21は、真ん中通路のプルマン式寝台車で、幅の広い寝台が魅力だった。この車両で星氏は、上段を利用する人が車外を見て楽しめるように、小窓を設けている。筆者は、何回かナロネ21に乗車した経験があり、B寝台車は52cm幅の3段式で「窮屈で狭い」という声が多かったが、A寝台車は非常に快適であった。
 20系客車に関する思い出として、乗り心地と防音性の良さが挙げられる。14系・24系客車のように、発車・停車時の不快な振動や衝撃がない。「カシオペア」で使用されるE26系客車と比較しても遜色がなく、「カシオペア」に乗車した時に「20系客車の水準に戻った」と感じたものである。
 防音性に関しても、複層ガラス窓や浮き床式を採用している上、穴あき化粧版を採用したため、車内は静寂であり、熟睡しやすかった。
 
 星氏が設計・開発した車両で未だ現役で活躍している車両に583系電車がある。臨時急行「きたぐに」で使用されるが、乗り心地や防音性は24系客車使用の臨時特急「日本海」よりも、格段に優れている。詳細は、『ブルートレイン誕生50年』を参照されたい。

 星氏が設計・開発した車両は、ブルーリボン賞を受賞していることが多い。151系電車、0系電車、583系電車が該当する。20系客車は、151系電車よりも1ヶ月前のデビューであり、翌年の昭和34年には151系電車が受賞したため、何の賞も受賞しなかったが、もし20系客車がブルーリボン賞を受賞しても、誰も異議を唱えなかっただろう。

 現在の車両は見た目重視であり、ただ単に目立てば良いという発想で設計されている車両が多い。その点、星氏は車体の外部色も、明るくて落ち着いており、汚れが目立たない色合いを導入した。そのため国鉄の特急電車色が未だに人気があるのは、単なる郷愁だけではない。

 星晃氏という偉大な技術者がいたため、日本の鉄道車両の技術が大幅に向上したのである。このような偉大な技術者がご逝去されたことは、大変残念なことである。
 星晃氏の生前の業績に対し敬意を表すると共に、ご逝去に対し心から哀悼の意を表します。