安倍内閣の10年間で200兆円の大型公共事業の是非

 安倍内閣は、デフレ脱却と経済成長を目的に10年で200兆円の大型公共事業を実施する考えである。昨年11月に中央自動車道の笹子トンネルの天井崩落事故が発生したことにより、老朽化した社会インフラの安全性が疑問視されるようになったことは確かである。
 筆者自身も、老朽化した社会インフラの更新の問題は重要であると考えており、「公共事業=悪」だとは思っていない。
 
 老朽化した社会インフラに対しては、更新して使用する方法もあるが、場合によれば撤去することも選択肢に入れても良いだろう。首都高速などは、東京オリンピックに合わせて建設されたため、築50年を超える区間もある。この場合、川を埋めたてたり、伏田をして建設された区間もある筈だ。
 韓国のソウルでは、李明博氏が市長時代に高速道路を撤去して、清渓川という河川を復元させている。日本もソウルを参考に日本橋を復元する計画もあるという。
 筆者は、日本橋の復元に賛成であり、この場合橋を覆っている高速道路の橋脚は撤去するべきだと考えている。「道路交通渋滞の激化が心配である」という意見も出てくるだろうが、この場合はソウルが地下鉄などの公共交通へモーダルシフトさせたように、公共交通へのモーダルシフトを促すようにしたい。

 筆者が必要とする公共事業は、高規格道路や空港などの大型公共事業ではなく、社会インフラのメンテナンスと防災対策(耐震強度の強化)、電柱の地中化、砂浜と松林の復活など、景観保全や街並み保全の公共事業である。このような公共事業であれば、10年で200兆円も要らない筈だ。先ずは単年度予算であるために、毎年繰り返される土木事業の無駄使い(無意味な道路の掘り起し)を止めるようにするべきだろう。これなどは複数年度制にすると同時に、市民に情報公開することで緩和できる部分もある。

 日本は成熟した国になったため、大型公共事業をいくら行っても、景気は浮上しないし、雇用も増えない。10年で200兆円もの大型公共事業を実施する費用があるのであれば、その1%でも良いからオーバードクターなどの解消に使ってもらいたい。

 現在、博士後期課程を修了した人でも、求人1に対して応募が20という超売り手市場となっている。オーバードクターした人の1割は、ショックのあまりに自殺するという。国民の税金で育てた人材が、社会で有効に活用されることなく、捨てられているのが実情である。これでは若人に「夢を持て」と幾ら政府が叫んでも、無理である。筆者は、これもニートが誕生する大きな要因であると考えている。

 『デフレの正体』の著者である藻谷浩介氏は、「女性の雇用促進が日本経済の活性化に向けた第二エンジンである」と書かれているが、筆者は「大学院を終了した高い専門性や優れた技能を有する人も活用することが、日本経済の活性化に向けた第三のエンジンである」と考えている。

 それでは大学院を終了した人の雇用先であるが、各自治体などがシンクタンクを創設して研究者として雇用する方法と、各自治体の高度専門職として雇用する方法がある。また大学のゼミも、1学年で40名という研究室もザラであり、このような状態では日本の将来を担う有能な人材は育たない。各大学が専任教員を雇用できるように、政府が10兆円程度の基金を創設するべきだろう。
 フィンランドなどは、人口が少ない上、少子高齢化も進んでいるが、教育に対する投資は怠っていない。それゆえ国際競争力を維持している。

 安倍内閣は、10年で200兆円もの大型公共事業を行う資金があるならば、その内の1%でも良いから、オーバードクター対策や教育の向上(人材の雇用)に回すようにして欲しい。そして大学院終了者が、社会から冷遇される今のような現状を打破してくれることを願っている。