松山〜小倉間のフェリー航路の存廃問題

 自民党が2009年に実施した高速道路料金休日1,000円の影響は、フェリー会社に大きな打撃を与えた。
 フェリーさんふらわあ大阪市)は、2013年1月23日に小倉〜松山観光港間の運航を同年3月末で中止すると発表した。4月以降は地元の松山を拠点とする石崎汽船が新会社を設立し、運航を引き継ぐ方向で国への申請を準備している。そのため路線自体は存続する見込みである。
 フェリーさんふらわあによると、小倉〜松山間のフェリー航路の開設は、1973年に前身の関西汽船時代であるから、40年の歴史がある。同航路は、夜間に片道7時間で両港を結んでいるが、小倉・松山の到着はAM5:00と少々早かった。そこでAM7:00までは、船内待機が可能となるサービスを実施して対応している。
 しかし2009年から本州と四国を結ぶ高速道路料金の大幅割引が始まった。これに伴い、同航路は大きな影響を受けた。2008年と比べ2009年の利用客数は、2割減の年間13万人となってしまった。この間にツアーバスなどの台頭もあり、競争上運賃を引き下げた。その結果、年間で1億円以上の赤字が出ていたという。
 運航中止に同社は、「赤字を支え切れなくなり、継続困難という結論になった。現在使用している2隻のフェリーは新会社に引き継ぐ」と説明している。経営悪化の要因として、ツアーバスとの競争もあるが、原油価格の高止まりも影響している。フェリーの運航経費に占める燃料代比の割合は、3〜4割である。
 筆者も先日、松山〜小倉まで同航路を利用した。松山観光港は、松山市の郊外の高浜にある。市内からは、伊予鉄道のリムジンバスだけでなく、伊予鉄道の高浜からのシャトルバスが運行されているから、利便性は悪くない。小倉港は、JR小倉駅から徒歩で15分の所にあるためか、コミュニティーバスすらない。荷物が多い場合、タクシーを利用することになる。
 松山・小倉を21:55に出航するが、21:00から乗船が始まる。使用する船が古いためか、エレベーターやエスカレーターなどは皆無であり、高齢者には厳しい環境である。ダイヤが21:55発、5:00着であるため、船内に食堂はなく、売店だけである。売店には弁当やおでんが販売されていた。そして軽食の自動販売機が備わっているため、お腹が空いた人はこれを利用すれば良い。
 風呂場であるが、浴槽にはお湯が張られているが、サウナや水風呂はない。また完全に夜行運航のため、浴室に窓がない。
 筆者は2等寝台を利用したが、松山〜小倉間の運賃は7,700円である。平素からよく利用するおれんじフェリーの大阪〜東予市間の2等寝台は、浴衣とコンセントも付いて6,600円であるため、割高感がある。
 松山〜小倉間の航路では、往復割引も実施しており、復路が3割引きになるが、インターネットで購入すると往復割引は適用されない。復路の割引を受けるには、片道を正規運賃で購入し、乗船の際に切り離される半券を保管しており、復路の乗船券の購入時に窓口で提示する必要がある。本当に分かりにくいシステムである。
 松山〜小倉間の船は、ロビーも狭く、とって付けたような感じである。おれんじフェリーは、展望ラウンジもあり、ピアノの自動演奏も流れており、22:00出航であるが、20:00から乗船を認めている。また食堂も営業しており、丼ぶりものが中心であるが、注文を受けてからコックが作って提供してくれる。
  航路が違うため単純比較は出来ないが、松山〜小倉間のフェリーのサービス水準は高くないかもしれない。

 4月から新会社が運航を継続するが、船舶の老朽化は避けて通れない課題である。石崎汽船が出資した子会社に新造船を導入する力はないだろう。そのため鉄道建設・運輸施設整備支援機構が、船舶の新造と保有を行い、新たに創立する船社にリースする方法を模索しなければならない。
 またフェリーの運航に関して、ターミナル使用料は運航経費の3割近くを占める。フェリーは、専用ターミナルに発着するため、ターミナル使用料が他の内航海運と比較して割高である。経営を安定させるには、松山観光港小倉港のターミナル使用料を値引く必要があり、松山市北九州市がこちらに対して補助を行う必要がある。
 フェリー航路は、1度廃止されてしまうと復活が難しい交通機関である。最低でも2隻の船舶を所有し、定期運航を行わなければ、顧客が付かない。
 原油価格の高騰もフェリー事業者の経営を圧迫させる要因となっており、これに対しては税金の掛かっていないボンド油を提供することも考えなければならないだろう。
 民主党が社会実験を始めた高速道路の無料化などは言語同断であり、政府も自動車一辺倒の交通政策から脱却を行い、総合交通体系へシフトさせなけばならない。フェリーは物流を担う重要な交通機関であるため、早期の交通基本法の成立を願っている。