北総線運賃値下げ裁判の判決と今後の課題-交通基本法の早期制定の必要性ー

 千葉県北西部を走る北総鉄道は、非常に運賃が高いことで有名である。首都圏の大手民鉄の約2倍の水準にあるという異常さだ。第1期の開業は、1979年3月9日であるから、第一次オイルショックの後である。確かに物価の高騰などがあったため、建設費も当初の見込みよりも割高になった点は否めないだろうが、理由はそれだけではない。北総鉄道の起点は、京成本線高砂であり、終点は印旛日大医大であるが、鉄道事業免許で見ると非常に複雑である。高砂〜小室間は、北総鉄道第一種鉄道事業者免許を取得しているが、小室〜印旛日大医大間では、北総線第二種鉄道事業者免許を取得している。この免許は、他の鉄道事業者の線路を借りて列車運行する免許であり、インフラは京成電鉄の100%子会社である千葉ニュータウン鉄道が所有(第三種鉄道事業者免許を所有)している。ややこしいことに高砂〜成田空港間は、京成電鉄第二種鉄道事業者免許を取得して、列車運行を行っている。
 つまり高砂〜印旛日大医大間は、北総鉄道京成電鉄は同じ線路を使用して列車運行を行っているのである。
 問題は、運賃の設定の仕方であり、2010年7月に成田アクセス線が開業した時に、運賃の設定の仕方を変える必要があった。北総鉄道の運賃をそのまま継承したため、近距離では非常に割高な運賃となってしまった。北総鉄道の初乗り運賃は190円だが、3kmを超えると一気に290円になってしまう。僅か0.1km超えただけで初乗り290円になっている箇所が多数ある。京成電鉄の特急スカイライナーで成田空港へ向かう際の運賃は、上野〜成田空港が1,200円であるが、上野から僅か30km強の西白井では、950円と非常に割高な運賃となる。そのため北総鉄道の沿線住民は、このことに大いに不満であり、不公平かつ不公正に感じていたため、訴訟を起こしたのである。その背景として、北総鉄道の運賃があまりにも割高であるため、駅から徒歩で5分程度の場所に住んでいる人であっても、路線バスでの通勤を強制させられたり、アルバイトの面接などでも高運賃を理由に不採用になることもあったという。原告側は、そのような苦労を、『できるだけ乗らずに済ます北総線』という著書の中で述べている。

 原告は、北総鉄道の運賃が高い理由として、北総線の線路で「成田スカイアクセス」を運行する親会社の京成電鉄が、適正な線路使用料などを北総鉄道に払っていないことなどを主張している。鉄道事業法に基づき、2010年に両社の線路使用条件を認可した国に対し、認可取り消しや運賃是正命令などを出すよう求めていた。

 国を相手に値下げを北総鉄道に命じることを求めた訴訟の判決が2013年3月26日に出たが、高額な運賃で利用者の生活が脅かされることを理由に、裁判を受ける権利を認めた原告適格は認められた。
 だが「運賃は適正に算出され、不当に割高とはいえない」と、事業者の主張を正当化して、原告の主張は退けられた。ここで言う「不当に割高」であるが、北総鉄道よりも割高な鉄道は、正直言えば幾らでもある。地方民鉄や第三セクター鉄道などは、北総鉄道よりも運賃が割高である。但しこれらが走っている地区は、人口過疎地などである。北総鉄道が走っている地域はニュータウンであり、かつ東京の近郊区間である。JRや他の民鉄と比較すれば、割高さは明確である。行政サイドも、北総鉄道が走る周辺地域の鉄道と比較する配慮が欠けているように感じてしまう。線路使用条件についても、「取り決めはすぐに運賃に影響しない」とした。

 原告は記者会見で「裁判所は行政側を向いている。不当だ」と不満をあらわにした。それでも運賃を法廷で争う権利の「原告適格」が鉄道利用者に認められたことは「一筋の光だ」と評価した。
 ここで言えることは、国(国土交通省)などは利用者ではなく、事業者の方を向いて仕事をしているということである。運賃・料金などは、利用者の利便性に配慮して、事業者よりも利用者に有利に決められなければならない。国土交通省は、2010年に京成電鉄成田スカイアクセス線の運賃を申請した際、北総鉄道沿線の利用者に過度な負担を掛けていることを考慮して、京成電鉄に是正を求めなければならなかった。
 
 筆者は、北総鉄道の運賃は、交通権学会が定める交通権憲章の「比較的低廉な運賃・料金で移動することが可能」という項目に抵触するため、問題があると考えている。そのため交通基本法を早期に成立させ、地域公共交通の維持・活性化だけでなく、「事業者主体の交通政策から、運賃・料金などは、利用者の利便性に配慮して、事業者よりも利用者に有利に決められるべきと筆者は考える。